俳優大地康雄さんが出会った「絵本の里」の情景。
俳優の大地康雄さんが、前作「恋するトマト」の上映会で北海道を訪れた折に、初めて剣淵を訪れたのは数年前のことです。そこでは、広大な大地にしっかりと根を下ろし農作業に精を出す人々が、仕事の合い間をぬって「絵本の館」に顔を出し、子どもたちに読み聞かせをしていたのです。子どもたちは目を輝かせながら聞き入り、腹をかかえて笑い転げ、時には目にいっぱい涙を浮かべていました。窓の外に広がる青空と、緑の大地に吹き渡る風に見守られながら…。
大地さんは、この姿に触れ、身体が震えるほどの感動に包まれたのでした。
「この情景が語るものこそ、今、私たちが、この日本が語らなければならないものではないだろうか…」その想いは、多くの共感を集め、この映画製作プロジェクトへとつながりました。
絵本を真ん中に置きながら、人の優しさと親子の絆をテーマにした映画を届けたい。
2011年3月11日、東日本一帯を襲った大地震は日本に大きな試練を与えました。
尊い生命と、日常の生活を奪われ、夢や希望さえも見失いかけた時、日本の各地から、そして世界の多くの国々からも「支えあう心の優しさ」が被災地に届けられました。避難所に暮らす子どもたちのもとには、自然発生的に絵本が届けられ、読み聞かせのボランティアも被災地を訪れました。
それらの絵本と読み聞かせは、子どもたちの「心のよりどころ」となりました。
あらためて「絵本の力」に驚かされた事実です。
そんな絵本を真ん中に置きながら、人の心の優しさと親子の絆をテーマに、楽しく、そして少し切なく心に染みわたる映画を日本中に届けたい。大地さんの思いに共感し、映画製作の旗を揚げ、その歩みを起こしてみようと思いました。
剣淵町が「絵本」に夢と希望を託したように、私たちもこの映画に夢と希望を託し、北の大地・剣淵と、困難な状況を乗り越え新しい歩みをおこした被災地・松島が、一本の映画を通して支え合い、心をつなげたとき、大震災から立ち直るための新たな力も見えてくるはず。そんな確信も、私たちを動かす力になったのです。