独創性豊かな作品を世に送り出している気鋭の映画会社A24が、長編デビュー作『コロンバス』で世界中の注目を集めた映像作家コゴナダとタッグを組んだ意欲作。小津安二郎監督の信奉者としても知られる韓国系アメリカ人のコゴナダ監督は、派手な視覚効果やスペクタクルに一切頼ることなく、唯一無二の未来的な世界観を本作で構築した。さらにSFジャンル初挑戦となったこのプロジェクトで、敬愛する坂本龍一(オリジナル・テーマ「Memory Bank」を提供)とのコラボレーションを実現。音楽を手掛けるAska Matsumiyaの美しいアレンジに加え、岩井俊二監督作品『リリイ・シュシュのすべて』で多くの映画ファンの胸に刻まれた名曲「グライド」を、Mitskiが歌う新バージョンで甦らせた。
人間と何ら変わりない外見を持つヤンは、高度にプログラミングされたAIによって知的な会話もこなすベビーシッター・ロボットだ。そんなヤンとかけがえのない絆で結ばれた家族の姿を見つめる本作は、SF映画の意匠を凝らしたヒューマン・ドラマ。ヤンの体内のメモリバンクに残された映像には何が映っているのか。そこに刻まれたヤンの記録/記憶は、いったい何を物語るのか。そしてAIに感情は宿るのか。本作はそうした幾多のミステリーを提示しながら、さして遠くない未来に現実化しうる人とロボットとの関係性を観る者に問いかける。人間と人工知能のあわいを伏線豊かに描き、静謐な映像と心に響く音楽が観る者を魅了する、かつてない感動作が誕生した。