●危険な汚れ役に挑んだニコール・キッドマン、迫真の名演
エリンを演じるのはアカデミー賞(R)女優ニコール・キッドマン。最近は『スキャンダル』『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』など、問題作への積極的な出演が続いていたが、今回はさらに思い切った、これまで演じたことのない刑事役。しかも酒に溺れ、私生活も破綻した中年女性という汚れ役は、ニコール=美人女優というイメージを覆し、これまでのキャリア自体を破壊しかねない危険な賭けだった。だが、特殊メイクを施して顔かたちを変え、激しい暴力シーンや銃撃戦にも臆せず、加えてエリンというキャラクターに複雑な陰影を与えたニコールの演技は、全米マスコミから大きな注目を集め、絶賛評が相次いだ。その結果、ニコールは2019年ゴールデングローブ賞・主演女優賞にノミネートされ、そのチャレンジ精神と演技力はあらためて高く評価された。
●鬼才クサマが強烈なタッチで描き上げたLAノワールの衝撃作
監督は日系女性監督のカリン・クサマ。ミシェル・ロドリゲスを主役に抜擢した『ガールファイト』(00)で鮮烈にデビュー。その年のサンダンス映画祭、カンヌ映画祭、ドーヴィル映画祭など各国映画祭で絶賛され、数多くの映画賞を受賞した。近作のサスペンス『インビテーション』(15)ではシッチェス・カタロニア国際映画祭グランプリを受賞し、新たな注目を集めている。クサマは本作で、アメリカ映画の伝統的ジャンルの一つであるフィルム・ノワールに初挑戦。脚本を読んで役を熱望したニコールと四つに組み、強烈かつ緊張感みなぎる演出でドラマを牽引。オスカー女優から観客の想像を上回る熱演を引き出した。また“直射日光下のノワール”を目指したクサマは、実際の犯罪多発地帯を含むロサンゼルス全域でオール・ロケを敢行。茫漠と広がる乾き切った荒野や、人気のない夜の街角や空き地など、普段カメラが向けられないロサンゼルス周辺の、寂れて荒んだ風景がクールな詩情をもって捉えられ、それがまたこの作品の魅力の一つとなっている。