原作はエド・サンダースによる著書「ファミリー-シャロン・テート殺人事件」。平和的なヒッピー集団が戦闘的な殺人結社と化するまでを圧倒的な迫力で綴ったこのすさまじい犯罪ドキュメントをベースに、語りつくされた題材に新たな視点を盛り込むためにレスリー・ヴァン・ホーテンの長きにわたる獄中生活を記録したカーリーン・フェイスの著書『The Long Prison Journey of Leslie Van Houten: Life Beyond the Cult(原題)』の要素も取り入れられた。これにより監督のメアリー・ハロン、脚本のグィネヴィア・ターナーの『アメリカン・サイコ』(2000年)の女性コンビは、実行犯のファミリーのメンバーにフォーカスし、残虐な殺人そのものではなく、カルト集団に参加するところから収監されるまで、主要な女性メンバー三人を中心にこの悲劇的な事件に至る過程を描き、今まで作られた数多くのマンソン関連映画作品とは異なる、マンソン事件に対する新たな見方を提示する。先に待ち受ける凄惨な出来事へと向かうマンソン・ファミリーの日常生活は、穏やかで和やかに綴られているものの、全体に重苦しく不穏であり、危険で異様な空気に満ちている。残虐で派手な殺人の演出や、新たな事実を提示するでもない本作は、世の中のどこであっても誰であっても起こり得る<洗脳・思考停止・狂信>のプロセスを描き、観る者に身近に起こり得るという恐怖を与える作品となっている。
実行犯のマンソン・ファミリーの役には、イギリスのTVシリーズ「Skins」や「ゲーム・オブ・スローンズ」のハンナ・マリー、ケヴィン・ベーコンとキーラ・セジウィックの娘ソシー・ベーコン、女優でありミュージシャンとして活躍するマリアンヌ・レンドンが扮し、チャールズ・マンソンをイギリスTVシリーズ「ドクター・フー」で知られるマット・スミスが演じている。さらにはマンソンを音楽業界に紹介してしまったビーチ・ボーイズのデニス・ウィルソン、そしてシャロン・テート殺害のきっかけとなったともいわれているドリス・デイの息子であり音楽プロデューサーであるテリー・メルチャーのキャラクターも登場、1969年に起きたこの事件への過程を再確認できる内容ともなっている。