夭折の作家・伊藤計劃氏の原作小説3作を連続劇場アニメ化していく一大プロジェクト「Project Itoh」。その掉尾を飾るのが『ハーモニー』である。“もう一つの過去”を幻視した第一弾『屍者の帝国』から始まり、“9.11後のリアル”をえぐる第二弾『虐殺器官』を経て、第三弾『ハーモニー』では“来たるべき優しきディストピア”が描かれる。『ハーモニー』の刊行は2008年。病に倒れた伊藤計劃は、本作を遺して2009年にこの世を去る。病を得た伊藤は、どのような思いで高度発達医療社会で繰り広げられる物語をしたためていたのか。本書は、第40回星雲賞(日本長編部門)および第30回日本SF大賞を受賞。本作の圧倒的存在感は、国内のみならず、世界にまで響いている。本作は2010年に英訳されると、同年のフィリップ・K・ディック記念賞(特別賞)を受賞したのだ。まさに日本を代表する作家といってよいだろう。かくして私たちのもとには、伊藤計劃がその卓越した想像力で示した「過去」と「現在」と「未来」の3つの物語が遺された。2014年3月「Project Itoh」発足。この3つの物語は、アニメーションという新たな形に変化して、それぞれの位相から私たちの現在の「生」を照らし出すことになった。『ハーモニー』のアニメーション化を手がけたのは、Studio4℃。クリエイターのセンスを生かしたエッジのきいた映像で、世界のファンをうならせてきた。監督はなかむらたかしとマイケル・アリアスのコンビ。『AKIRA』の作画監督として世界に知られたなかむらと、アメリカ出身で『鉄コン筋クリート』を監督したアリアスのコンビネーションは、世界で評価された『ハーモニー』を映像化するのにふさわしいコンビといえる。
伊藤計劃の用意した「過去」「現在」、そして「未来」を目撃したあなたは、その物語の一部として「伊藤計劃以後」の世界を生きることになる。