原一男と小林佐智子の二人は、神軍平等兵・奥崎謙三に次ぐ強烈な“スーパーヒーロー”を、探し求めていた。そんな時に小林は、作家・井上光晴が開講している伝習所生の鈴木郁子と出逢う。『書かれざる一章』『ガダルカナル戦詩集』『虚構のクレーン』などの作品で知られる井上は埴谷雄高、野間宏らと共に、戦後派の旗手として活躍した作家の一人だ。鈴木からその井上の講演に誘われた原と小林は、新宿紀伊國屋ホールに出かける。よく通る声と話術で、聴衆を捉えて離さない。原と小林は天性のアジテーター・井上光晴に、強く惹かれる。「井上光晴を撮りたい」そんな気持ちが二人の中に芽生える。原は、井上原作の『地の群れ』(70)を映画化していた監督・熊井啓の仲介で、井上を『ゆきゆきて、神軍』の試写に招く。一方、紀伊國屋での講演会以来文学伝習所に通うようになった小林は、井上がガンに冒されている事を知る。原と小林は、井上の自宅を訪ねる。「考えながら撮り、撮りながら考えたい」そう懸命に想いを告げる原に、井上は答える。「(僕の)ストリップくらいなら、撮っていいですよ」